シンプル・イノベーション (Simple Innovation)

複雑で込み入った事象の単純化にトライ & 新しい発見を楽しむブログ by こうのすけ

お寿司屋さんで、なぜかナックルボールを多投する女

先日、連れ合いと二人してお寿司屋さんへ行った。

もうすっかり馴染みのお店である。

大将もよくしたもので、こちらの嗜好に合わせて、

お寿司は勿論、季節の小料理、それから、

鍋料理まで出してくれる。

置いているお酒は焼酎からワインまで揃えてあ

るが、とくに日本酒の種類が多く、

他店では滅多に出会えないような珍酒を堪能す

る機会に恵まれることもある。

 

この日も、それが楽しみで、

こちらのお店を訪れたのであった。

 

ただ、このところ寝不足ぎみであった連れ合いが、

予め睡眠薬をいつもより多めに飲んでいた。

カウンターの席に着いてしばらくする頃には、

連れ合いは薬のせいで、眠い、眠いと、

ぐずり始めていた。

大将やスタッフの人は勿論、

他のお客さんも皆心配してくれた。

このお店は客層がいい。

気が良くて、親切な人が多い。

だが、お寿司屋さんのカウンター席で、

ほんとうに眠ったりするとマズイから、

連れ合いに気合を入れる意味で私はこう言った。

 

「お寿司屋さんのカウンター席で寝るなんて、

 そんなことをしたら、店の内外で有名になるで。

 もし眠ったら、(地元の)〇〇新聞に電話して、

 取材に来てもらうわ」

 

などと、あまり上等とはいえないジョークが、

口を突いて出た。

 

私のすぐ右隣りのカウンター席にいたのは、

50代と思しき初めて見る女性だった。

先ほどから、自分で注文したワインのミニボトル

を手に取って、なにやら、それを眺めたり、

ラベルの表記を読んたりしている。

そのうちに、

 

「あかんわぁ、このワイン、

 めちゃくちゃ酔うわぁ、なんでやろ?」

 

などと、誰かに訴えるように言い始めた。

 

その女性の右横は誰もいないので、

明らかに私に向かって言っている・・・。

あまりに女性がその言を繰り返すから、

私は女性の承諾を得た上で、

そのワインのミニボトルを拝借して、

ラベル表記を読んでみた。

━━━アルコール度数:5~6%とある。

ワインにしては、度数が低い。

恐らく、スパークリングワインの類であろう。

度数が低いので悪酔いはしないであろうこと

を女性に告げ、私はミニボトルを返した。

 

それ以降、その女性と話すこともなく、

私は連れ合いと舌鼓を打ち、ビールを飲んだ。

ちょうど、私達がビールから冷酒に切り替え

る頃だろうか、ふと右の女性に目をやると、

熱燗を飲んでいるではないか・・・。

あれ、この女性、酒が弱いのに大丈夫かな、

とは頭の隅でチラと考えた。

 

そのうちに、女性の身体が前後左右に揺れて

いるのが視界に入った。

いわゆる、船を漕ぐ状態だ。

あれまっ、完全に眠っているではないか。

 

えっ、お、おまえが寝るんかい!

 

とツッコミを入れたい気持ちを抑えつつ、

私は女性の肩を揺すって、

起こして差し上げた。

身体が揺れて、椅子から落下しそうになって

いたからだ。

そうなるのは、さすがに気の毒に思った。

他のお客さんからは、いうまでもなく、

クスクス笑いの声が漏れていた。

 

そのうちに、女性はまたしても熱燗を御代わ

りしている。 やおら、私にこう切り出した。

 

「わたし、お酒、なんぼ飲んでも酔わへんねん」

 

はあ?、さっきのあれは何やねん、である。

変わった客だと思いつつも、

女性はさらに畳みかけてきた。

 

「にいちゃん、若いなあ、歳なんぼなん?

 わたしには、息子が一人おってなあ、

 息子は34やねん、にいちゃん、

 それくらいに見えるわぁ~」

 

私はもう50を過ぎている。

そんな私が34に見えたならば、

まんざら嬉しくないわけではない・・・。

そんなこんなで、この人と会話を続けるハメになった。

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女性は手元にある”おしぼり”を手に取ると、

なぜか元の正方形の形に広げ、

折り紙でも折るかのように畳み始めた。

どうも、何かを作る気でいるようだ。

女性は出来上がった作品をカウンダーテーブル

の上にデンと置いた後、得意げに言った。

 

「これ、ヨットに見えるやろ、私が考えてん」

 

しかし、どう見てもヨットとは思えない。

根が正直な私だから、

私は首を縦に振らなかった。

 

「ヨットには見えないけれど、あの、

 たしか、オーストラリアにある、あの・・・」

 

ここで、連れ合いが助け船を出した。

 

「そう、シドニーのオペラハウスに見えるわ」

 

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そう評価を受けた女性は少し腹が立ったのか、

また熱燗を注文する。

私達より、はるかに飲むペースが速い。

 

「わたし、なんぼ飲んでも酔わへんねん」

 

をまた繰り返す。

なんか、よくわからん女だ、この人は・・・。

 

女は、次々と話題を急変させていく。

女の夫が料理好きで、魚も捌けること、

夫が作った料理について何も言わないでいると、

彼は酷く気分を害すること、

昨夜フェリーに乗って、ここへ来たこと、

一睡もしてないこと、

それでも、平気なこと、

嫌いな人との付き合いをやめたとたんに、

運が良くなったこと、

関西のあるところで、かつて住んでいたこと、

息子の嫁が、母である女から息子を奪ったこと、

息子の靴のサイズが30であること、

(デカ過ぎるやろ、ジャイアント馬場か?)

空の雲を動かせること、そして、

酒はいくら飲んでも酔わないこと・・・。

 

私など、その筋の情報には割と詳しいので、

10年ほど前に雲を消すゲームがごく限られ

たところで話題になったことは知っている。

ただ、もうこの女に対して警戒心が芽生えて

いたから、生半可な返事を返すだけで、

適当にあしらっていた。

 

━━━ナックルボール

野球には、わかっていても打てない魔球がある。

その魔球が、ナックルボール

魔球だけに、この球を投げる投手は限られる。

ボールをコントロールすることが難しいからだ。

ナックルを投げるピッチャーでさえも、

ボールがどこへ曲がるかは、投げてみないとわ

からない。 キャッチャーも捕球できず、

結果的に暴投になるケースも多い。

 

この女は、そんなナックルボールを投げている

のだ。 予想も付かぬところから、

あれやこれやの、曲がりくねった話題を投げて

寄こす。 とてもじゃないが、ついて行けない。

これでは、聞いている方も疲れる。

それに、私は捕手ではない。

高倉健と武田鉄也の映画でのワンシーンではな

いが、私にはキャッチャーミットもないのだ。

 

━━━ところで、連れ合いといえば、

相変わらず睡魔と闘っている様子だった。

私は、もうここらが潮時と判断し、

料理を完食をすると同時に、私達二人は店を後

にすることにした。 女は、あの勢いでは、

きっと閉店まで粘るに違いない。

 

私が34に見えるという話も真に受けないよう

にしよう。 あれは、話のとっかかりを作るた

めに投げられた最初のナックルボールであろう。

そもそも、私が34に見えたのなら、

私に人生の重みやら、私と同じ年齢の男が持っ

ていてしかるべき、貫禄ってものがまるでない、

ということではないか・・・。(汗)

 

(※:わからない人のために・・・。

高倉健と武田鉄也の映画とありますが、

この映画は「幸せの黄色いハンカチ」です。

映画の中で、高倉健が武田鉄也に説教する場面

があります。 高倉健は、武田鉄也を正座させ

て次のように説教します。

 

「いいか、女は弱い者なんじゃ、男が守ってや

 らないけん、(省略) お前のようなヤツは、

 博多では “草野球のキャッチャー”

 っていうんや、ミットもない、ってな」

 

恐らく、あの健さんがダジャレを言ったのは、

この映画が最初で最後だったのでは?)