シンプル・イノベーション (Simple Innovation)

複雑で込み入った事象の単純化にトライ & 新しい発見を楽しむブログ by こうのすけ

私は子供?・・・『クレヨンしんちゃん』 と同じね、と烙印を押された夜

男は恨めしそうに夜空を見上げ呟いた。

今朝は降ってなかったのに・・・。

改札口を出て、通りの道まで出てくると、

道路のアスファルトを激しい雨が叩いている。

今夜は雨になる・・・天気予報では、

そんなことを言っていたような気もするが、

まあ大丈夫だろうくらいに、

気楽に考えてしまったのであった。

 

時間は夜の11時を廻っていた。

傘がないのは仕方がない。

問題は、どうやって家に帰るかにあった。

男は原付バイクを駅の駐輪場に留めていた。

バイクで帰るならば、

たとえ傘があっても大して役に立たない。

だとすれば、原付を駐輪場に留めたまま、

1人タクシーを拾って家に帰るべきか・・・。

だが、タクシー乗り場は、

傘を持たない勤め人たちが、

長蛇の列を作っていた。

これでは、男がタクシーに乗るころには、

12時をゆうに超えていよう。

 

時間がいたずらに過ぎて行った。

雨の音がさらに大きくなった。

15分が経過するころ、

男は意を決して歩き出した。

駐輪場へ向かうのだ。

今夜は、バイクで帰る。

男はそう覚悟を決めて、

雨の中を駐輪場へと向かって歩き始めた。

 

駐輪場は建物の中にあった。

ここまで来れば、雨には濡れる心配はない。

ズブズブになった上着を脱ぎ、水を払った。

男はバイクの椅子を持ち上げ、

ヘルメットを取り出した。

空いたスベースに、

脱いだ上着を適当に畳んで置いた。

 

この時点で、男の頭の中には、

雨に唄えば』のフレーズが鳴っていた。

 

  I’m singing in the rain!

  なんという気分だろう

  幸せが戻ってきた

  空にたれこめる

  暗い雲に笑いかける

  雨よ 降れ

  笑顔で受けよう“

 

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・・・という歌だ。

映画では、ジーン・ケリーが、

この歌を雨の中を踊りながら歌う。

 

男はこのシーンを思い出しながら、

ある欲望に取りつかれ始めていた。

どうせなら、この映画を超えてみたい。

映画以上のことをしてみたい。

━━━どうしようもない男であった。

 

駐輪場には男一人しかいなかった。

この大雨の中をバイクや自転車で帰ろうとす

る馬鹿はいない。

人目がないことをいいことに、

男はネクタイを解いた。

続けて、シャツ、下着、

それから、ズボンも脱いだ、

その上から、黒のレインパーカーを着用した。

丈の長いものだ。

・・・思い切って、パンツ(下着)も脱ぐ。

最後に、靴と靴下を脱いだ。

レインパーカーを着ているだけで、

実態は素っ裸であった。

 

男はヘルメットを被ると、

駐輪場の出口まで、バイクを押して歩いた。

さあ、ここからが冒険の始まりだった。

 

単車に跨りスタートさせると、

男が乗ったバイクはゆっくりと走り出した。

あまりスピードは出せない。

打ちつける雨で前がよく見えない。

道に出来た水溜りにも気を配らねばならない。

だが、ものの数メートルも走ると、

ヘルメットの中の男の顔には、

満面の笑みが浮かんでいた。

 

  道を行けば

  陽気な歌があふれ出る

  こうして雨に歌いながら

  幸せが戻ってくる

 

ふと足許を見ると、

レインパーカーの裾が太ももの辺りまで、

風で捲れ上がっている。

アブナイ、アブナイと焦りつつも、

男は時より垣間見える自分の太ももが、

色っぽいと思えて可笑しくて仕方がなかった。

 

爽快感が男を包んでいた。

非日常を生きていた。

だが、一抹の不安もよぎる。

パトカーが来たら、どうしよう・・・。

なにせ、レインパーカーを着ているとはいえ、

その下は全裸である。

職務質問されようものなら、

下劣極まりない罪で逮捕されかねない。

男は祈るような気持ちで、

バイクを慎重に走らせて帰った。

 

5分も走れば、家に到着した。

門の前でバイクを降りた。

バイクのスタンドを立てようとしたが、

如何せん裸足であった。

素足が痛くて、単車のスタンドが上がらない。

仕方なく、バイクを横倒しにしたまま、

門の扉を急いで開けた。

だが、横倒しになったバイクを警官に見られた

らコトである。 直ちにバイクを引き立てて、

門の中に入れなければならない。

しかし、またしても裸足なのが災いした

バイクを起こすのが難しいのだ。

無理に起こそうとすると、

足裏に激痛が走るのであった。

男が好きで始めた『雨に唄えば』遊びには、

最後の最後で手痛い、いや、

足痛いしっぺ返しが待っていた。

 

━━━この話を、男が当時まだ知り合いでしかな

かった連れ合いに、メールで書いて送った。

連れ合いから、返事が来た。

読んでみると、こんなことが書かれてあった。

 

そんなことはしない方がいいと思います。

こうのすけって、クレヨンしんちゃんと、

おんなじね。バカ!

 

(以上、多少の脚色は加えてあります)

 

Gene Kelly - Singing In The Rain ジーン・ケリー 雨に唄えば - YouTube