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シンプル・イノベーション (Simple Innovation)

複雑で込み入った事象の単純化にトライ & 新しい発見を楽しむブログ by こうのすけ

昔のパ・リーグ、野村克也 VS 山田久志の戦い

野球 Baseball

 

今年もこの狸オヤジと闘うのか・・・。

と山田は胸中で呟いた。

南海の4番打者、野村克也

戦後初の三冠王にして、監督兼務のプレイ

イング・マネージャーである。

この野村を相手に、過去、山田は何度も煮

え湯を飲まされてきた。

配球のクセを分析され、

その結果、幾度となく痛打を浴びた。

 

それ以上に山田が嫌だったのは、

野村による囁き戦術であった。

捕手の野村が相手チームの打者に向かって

囁くのは広く知られるところだが、

野村は相手の投手にまで囁くことがあった。

あれは三年前のことであった。

南海戦で山田が投げていて、

6回1アウト1塁で打者野村を迎えた場面。

山田は決め球のストレートを投じ、

野村をショートゴロ・ダブルプレーに仕留

めた直後のことだった。

マウンドから一塁のダッグアウトへ戻ろう

とする山田に野村が声をかけてきた。

 

『おい、ヤマ、今日は脚の上げ方が、

 いつもより低いな・・・』

 

野手に比べれば、投手は繊細な生き物だ。

野村のこんな何でもない言葉が気に掛かり、

次の回、山田は南海打線に捕まり、

KO負けを喰らったのである。

以後、山田は試合中でも自分の投げている

フォームを気にするようになった。

ゴルフと同じで、

ゴルフファーは自分がどんなフォームで打

っているかは分からないものだ。

野球のピッチャーとて同じだ。

自分がどんなフォームで投げているかは

実際には分からない。

だが、昨シーズン26勝7敗で最多勝

並びにパ・リーグMVPに輝いた山田は、

稀に自分のフォームが観える気がした。

前後左右斜めから、あるいは、上空から、

自分がアンダーハンドから繰り出す、

腕のしなり、脚の蹴り、手首の角度、

それらが鮮やかに脳裏に浮かぶのだ。

 

この状態に入ることが出来れば、

何を投げても打たれる気がしない。

心技体が充実し、ノッているときは、

向かうところ敵無しの心境だ。

また、相手打者がどんな球を待っている

のかも瞬間的に分かることがあった。

 

昨年、野村と対戦した際、

振りかぶって投げる寸前、

ヤバいと感じた。

客観的な理由などない。

セオリー通り、長打を浴びる危険性の少

ない外角低めにカーブを投げるつもりで

いたのだが、ボールを手放す一瞬前に、

狙われているのが分かるのだ。

とっさに、コースを変えて、

内角高めにストレートを投じた。

野村は虚を突かれて、

ボールにバットを当てるのが精一杯。

打球はボテボテのショートゴロとなり、

脚の遅い野村は一塁ベースのかなり手前

でアウトになった。

 

━━━今年最初の南海戦。

4番打者野村がバッターボックスに入る。

はたして、野村は何を待っているのか。

山田にはまだ昨年のような“感覚”はない。

それでも、投げるしかない。

白鳥が舞う様なと賛美された独特のフォー

ムから放たれた白球は、

山田が渾身の力を込めたストレートだった。

 

 

(※この記事はフィクションです)

 

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